美人の顔は、覚えられない?

全国どこへ行っても、同じ品質で同じ味のものが、安定した値段で食べられる。チェーン店の存在というのは、もちろんメリットになる場合もあるでしょうけれも、すごく不自然なことのようにも思えます。


その土地によって、どんな食材が得られるかはさまざまです。それらの食材をどう味付けするのか、食材の持ち味をどのように引き出すのかといった調理法、卓上での食べ方にまで及んで実に個性豊かな「食」が地域によってあるでしょう。旅に出かけたときは、そうした食文化を楽しみたいところです。


自分の住む地域に何か特色のある食文化があるだろうかと考えます。東京23区をわずかに西にはずれ、ほどほどに都市化された住宅地域……それが、僕の住む町です。どこにでもあるようなチェーン店と、このあたりの地域を中心にしたチェーン店と、個人のお店が混在しています。世界中のいろんな地域の文化をもとにした食事がそれぞれの店で提供されていますが、どれも一般化して今さら物珍しいものでもありません。このあたりで採れる野菜を使っています、というようなことはあるけれど、それらがハワイ風ロコモコ丼になったり、ヨーロッパかどこかのバーニャカウダになったりしています。この地域らしさが感じられるものってなんなんでしょう。強いていえば、武蔵野うどん、とかでしょうか……ちょっと苦しいような気もします。「おれたちのソウルフードはコレだ!」というような、共通のシンボルがないのです。


自宅の冷蔵庫にある調味料を挙げてみます。ソース、しょうゆ、みそ、めんつゆ、酒、酢、みりん風調味料、ケチャップ、マヨネーズ、ナンプラー、レモン汁、ドレッシング、タバスコ……使い切れずに残った、使用頻度の低いものがたくさんあります。ごちゃごちゃです。自分の地域にある飲食店の特徴のなさ、地域性のないごちゃごちゃ感がそのまま冷蔵庫に持ち込まれているかのようです。こうしたものを用いて日々の食卓が回っているんだなぁと、改めて思います。


ちなみに、僕が最も使用する調味料を3つ「冷蔵庫しばりナシ」で挙げますと、砂糖・塩・油です。肉も野菜も魚もなんでも、この3つでマズいようにはなりません。というかまず間違いなく、美味しいです。基本的すぎて、地域性も何もありません。


急に跳躍した話を始めることをお許しいただきたいのですが、僕は美人の顔が覚えられないことがあります。なんべんも会う機会があればやがてなんとなく覚えるのですが、一度会ったくらいだと、いくら記憶をまさぐっても、頭の中でその顔を再現することができないのです。「ああ、なんか美人だったな」という空虚な感想未満の印象が、自分の記憶の段ボール箱にマジックで書き殴られているだけ……その箱をいくらひっくり返しても、何も出てきません。


自分の住む町が「美人」かといえば、うーん、ただ平均的なだけの日本人……それ以上に出てきません。32年間住んでいるので、その顔はなんとなく思い出せるのですけれど。