メモ未満

いつも持ち歩いている物のひとつに、スマートフォンがあります。これに、ボイスメモというアプリが入っています。音声を録って保存しておけるアプリで、声のメモ、すなわちボイスメモというわけですね。


これを聴くときって、ストレージを圧迫するデータを消そうというときくらいです。9割以上のボイスメモは、録ったっきり聴きません。いちおう、これ捨てていいかしら? と確認のために聴くのです。


聴き出すとなんだかんだおもしろくて、結局捨てられないデータも多いです。文字のメモと違って、たとえば15秒の音声の内容をまるまるきちんと検めるためには、時間的に同量の15秒がかかってしまいますから、ボイスメモデータのお掃除なんてやり出すとたくさんの時間が必要になります。ぜんぶをきちんと聴くやり方でなくともデータの取捨選択はできるでしょうけれども、もはや入念なお掃除自体をあきらめる方に向かいがちなのがわたしです。


わたしのボイスメモはほぼすべて、音楽に関わるものです。曲の構想や細かいアイディア、それらの結びつけ方、組み上げ方、威勢や熱量の移ろい方など、筆記するのは難しい(仮に可能だとしてもそれに費やす時間を確保できない)からこそボイスメモという形に頼ったものばかりです。紙や鉛筆がなくてよくて、そこにスマートフォンを置いて開始ボタンを押したら声や音を発するだけという手軽さこそが、ボイスメモのデータの数量を嵩ませてしまういちばんの理由かもしれません。残ったデータの内容すべてに耳を通すには、まるまる記録されたのと同量の時間かかってしまいますが、記録の際に収録時間以上がかかることもありません。


メモを残して保存し続けることのデメリット、あるいはその代償がもう少し大きいものだったら、わたしはメモを残すことをもう少しためらうでしょう。印刷をミスしたぺらぺらの紙の裏面だったらば、くだらないことを気軽に書いてしまいがちですが、質感にまでこだわった高価で分厚く丈夫な紙だったらば、少なくとも考えなしに手が遊んだ痕跡を残すような使い方はしないように思います。


そうか、ものっすごいデータ量のかさむ、飛び抜けて良い音質で録れるように設定しておけば良いのか!……と、アプリを検めてみると、確かに「ロスレス圧縮」という記録品質が選べるようでしたが、実際にそのボタンにわたしが触れたかといえばそれはなく、黙して設定画面を閉じたのでした。(これは性格の問題でしょうか、それとも……もっと根深い何かに起因するのかもしれません)


埋もれて困るようなボイスメモを残したときは、きちんとそれとわかる名前をつけて保存するようにしています。実際、9割以上は聴きもしないデータですが、ごく一部のデータは、必要があって何度も繰り返し聴くことがあります。そうしたものの多くは、残すときにきちんと名前をつけたデータです。


そうか、名前をつけりゃいいのか……


そもそも、「ぱっと見て何についてなのかが端的にわかる形で残されているもの」を「メモ」という……などというテコ入れがはじまったら、わたしはそもそも「純然たる、メモの名に恥じぬメモ」をいくらも残せていない人間なのかもしれません。


お読みいただき、ありがとうございました。