捨てられないもの

わたしは、歌うことを習慣にしています。趣味であり楽しみであり、勉強や研究のタネであり、エネルギーを費やす運動であり、自己表現の手段であり、生きがいといっていいものだと思います。


体調がわるくて、歌うことに支障が出ると、わたしはそのことでなおさら元気がなくなります。あーあと思いますし、なんで体調がわるくなったんだろう、なんでこんな風邪なんか引いたんだろう、どこにわたしのいけないおこないがあったんだろう、判断を誤ったのはどこだったんだろうと、猛省します。そうやって習慣を改めるのに努めるのです。


なるべく体調を崩さないように、万に一つでも風邪を引くことがないように、少しでも声の調子を良好に保つためにはじめた習慣のひとつが、エッセンシャルオイルで香りをつけたマスクを常用することです。眠るときにも着けていて、安眠効果があるとされるスウィートオレンジのエッセンシャルオイルで香りをつけたマスクを装備するのが就寝前の習慣になっています。


これをすると、寝覚めが良くなる実感がありますし、睡眠の質が良くなる気がします。風邪を引きにくくなったような気もするし、声の調子もいつも良くなり、ひどく崩れることが少なくなったように思っています。


ですが、ひょっとしたらぜんぶ気のせいかもしれません。この習慣をやめたところで、そう調子が変わるものでもないかもしれないのです。この習慣を、やめた際のじぶんと、続けた際のじぶんをある点で分岐させて、その未来がどのように変わるかを観測することはかなわないのですから。仮に観測できたとしても、その差異が100%この習慣の有無に起因するものだと、どうして言えようと思うのです。


わたしのこの習慣、やめたってそう変わらないかもしれないのです。声の調子のためにジタバタすること自体が趣味にすり替わっているかのように見えるかもしれません。あの薬や食べものや飲みものやグッズがノドのピンチの時に良いとうわさを聞けば、飛びついて買い揃えるありさまです。


なぁんにも特別なグッズは要らなくて、ただバランスよく食事して日中よく活動し、夜早く眠って朝早く起きるだけで声もからだも調子よくいられるかもしれないのに。それってそんなにむずかしいことなのかなぁ?とじぶんに問いかけてみますと「いやね、君、あんがいそういうシンプルを極めるようなことって、それ自体も趣味みたいなものでさ……」とかなんとか言い始めるわたしを、わたしはどうにもできないでいます。


いや、たぶん、わたしのグッズや習慣についての積年の研究も決して無駄ではなく、生活の質の向上に与している……と思いたい願望こそが、最もわたしが捨てられないものかもしれません。


お読みいただき、ありがとうございました。