赤魔道士の憂鬱

「赤魔道士の憂鬱」という名前をつけたバンドでも組んでみようかしらと、ぼくは妄想したことがあります。


「赤魔道士」というのは、家庭用ゲーム機のゲームソフトとしてはじまり、たいへん大きなコンテンツになった「ファイナルファンタジー」というロールプレイングゲームの中にでてくる「ジョブ」のひとつです。


その「ジョブ」にはいろいろあって、格闘技に長けたジョブだとか魔法に長けたジョブだとかダメージの回復や支援に長けたジョブだとか刀や剣の扱いに長けたジョブだとかがいろいろあって、それぞれの「ジョブ」をきわめることによって、そのジョブ特有の技能を身につけて、発揮していけるようになるのです。


そういった「ジョブ」のなかのひとつが「赤魔道士」です。赤魔道士は、敵を攻撃したり不利にする効果をもたらすものが多い「黒魔法」と、味方を回復したり支援したりする効果をもたらすものが多い「白魔法」の両方を、そこそこつかえるようになる「ジョブ」 です。


この「そこそこ」というところに、ひっかかりがあります。「赤魔道士」は、「黒魔法」も「白魔法」も、最上級のものまではつかえるようになりません(ぼくの記憶が正しければですが)。せいぜい、中級くらいのものまでなのです。ですので、ゲームの進度における中盤くらい、敵の強さも「そこそこ」くらいまでならば、「赤魔道士」1人で攻撃も回復もこなせてたいへん活躍するのですが、ゲーム終盤、敵がかなり強くなってくる頃になると、「何をやらせても中途半端で使えないやつ」になってしまうのです。(ああ……


結局最終的に、もっとも深くゲームをやりこむあたりで必要になるのは、「黒魔法」にせよ「白魔法」にせよ、最上レベルの「一流の技能」なのです。その域に達する頃には、「赤魔道士」はお呼びでなくなってしまうのです。(中盤では良かったとしても……


話は変わりまして、ぼく自身のことを申し上げます。ぼくはいろんな楽器を演奏します。じぶんで曲をつくって、いろんな楽器の演奏を録音します。じぶんの演奏を聴きながら、さらにあらたなパートをみずから演奏して多重録音するのです。そういう音楽の活動をしています。


いろんな楽器をやるので、じぶんの専門がなんなのかよくわかりません。どの楽器をやるのもそれぞれに、「めっちゃオモシロイ」です。ただ、どの楽器の演奏スキルも「一流」未満といえば、そうかもしれません。二流のものがあればまだ良くて、どれも三流、四流かもしれません。


ぼくはもう33歳に達しています。この歳になる前に、なにかしらの分野や技能において一流になっている人はたくさんいます。年齢を引っ張り出しましたが、年なんか関係なさそうです。いえ、関係ないことはないでしょうけれど、なにかの分野や技能において一流になるために必要最低限の時間を、もう何周分も含みうる年齢、それが33歳なのだとみることができるでしょう。バイオリズムはひとそれぞれですから、ひとくくりに論じるのはあまりに暴力的かもしれませんけれど。


そこで、じぶんのことが「赤魔道士」に重なると思ったのです(最近思ったことではなく、もうだいぶ前に思ったことです。ぼくが「ファイナルファンタジー」を一番プレイしていたのは、10代の頃のことですし)。そこで、冒頭の名前のバンドを組むことを妄想したのです。最上位の魔法を習得できず、せいぜい中盤までしか活躍できないじぶんを憐れむかのようなネーミングです。もう一流になれないのが明らかなネーミングですよね。


ですので、実際にぼくがそんな名前のバンドを組むことはありませんでした。あくまで妄想上のバンド名です。


ただ、そんな名前のバンドを妄想上の存在で済ませたからといって、現実のぼくの「赤魔道士的なニオイ」が架空のものになったわけではありません。バンド名を「赤魔道士の憂鬱」にしなかったというだけで、やってること、人生の中身はもう「赤魔道士の憂鬱」そのものといってふさわしいかもしれません。あんまり「赤魔道士の憂鬱」なんて連発するのも恥ずかしいです。じぶんで言いだしたことの負債を、一挙に引き受けています。いえ、負債ではなく財産かもしれませんが。


妄想上のバンド名を考えるのがぼくは好きで、ほかにもいろいろと案を持っています。そのどれも、「赤魔道士の憂鬱」クラスに恥ずかしいものばかりです。墓場まで持っていくレベルです。意志が弱いので、どこかでこんなふうに漏らしてしまうかもしれません。


お読みいただき、ありがとうございました。