そのTシャツ、なんて書いてある?

むかし、サングラスをかけた軽妙な人柄の司会者が名物のバラエティ番組があった。その番組の中には、ゲストが次のゲストに声をかけて出演者が決まる(という演出の、あるいは本当にそうかもしれないが)トークコーナーがあった。


あれにもし僕が出ることになったとしたら、大ごとだ。じぶんにはピーアールできるようなことなんてない。軽妙なトークに軽妙なトークで応えて無難に時間をやりすごすしかない。そういった雰囲気を楽しむコーナーでもあったし、それで差し支えないだろう。ああ、あの番組が続いているうちに、僕に声がかかることがあったらなぁと思う。芸能人でもなんでもないけれど。僕になんの話ができるだろう。じぶんの最寄り駅が含まれている西武鉄道の話でもしたらもう十分だろう。あとは、軽妙な司会者がなんとかしてくれる。


おおぜいの人の前に立つことがあったら、ユニークなTシャツのひとつでも着て立ったらいいと思う。「そのTシャツ、気になるね」なんて誰かに言わせたらもう勝ちで、たとえば僕がじぶんでバンドのひとつでも主宰するミュージシャンだったらば、バンド名だとか曲やアルバムのタイトルだとか敢行しようとしているライブツアーの名前だかなんだかをあしらいつつもパッと見はなんの意味が持たされているのかわからないようなそれでいてなんかおしゃれでいい感じの美術でもって仕上げられてTシャツのひとつでも着て人前に出て行ったらいいのだ。そのTシャツが気になった人にそのことで話しかけられようものなら、「これはね……」としごく当然かつまともな流れでバンドのピーアールが成立するだろう。


そういえば僕はバンドのひとつでも主宰しているミュージシャンでもあるのだけれど、それでお商売を成立させているわけでもなんでもなく、仮に軽妙な人柄の司会者が名物のバラエティ番組に出演したとしても、「これをたくさんつくってあるんでみんな買ってください!」とピーアールできるような商品が潤沢にあるわけでもない。さしづめ、まだ勝負のステージに上がってもいない門外漢だ。「さしづめ」なんて言葉を生まれて初めてつかった。見届けてくださって、ありがとうございます。


そして、最後までお読みいただき、ありがとうございました。Tシャツっていいですよね。毎日着てます。