神棚に、13個目のミカン。

13個のミカンを3人で分ける。喧嘩にならないようにするにはどうしたら良いか……


真っ先に思い浮かぶのは、割り切れない1個を3分割することである。皮をむけば、中は房になっているだろう。房の数が、幸運にも3の倍数になっていやしないか……そんな都合のいいようになっていない限り、不満の声があがるかもしれない。あと、一度皮をむいてしまったら、すぐに食べなければならないだろう。とっておきたい者や、別の消費のしかたをしたい者もいるかもしれない。


個数に分かれていないホールケーキなんかを喧嘩なく2等分するときには、一方が正しく2等分だと思うように切り分ける作業を担当し、もう一方が、自分が獲得したいほうの片割れを先に選ぶ……というやりかたは有名かと思う。このやりかたは確かに不満の声があがりにくそうに思えるが、案外きっちり正しく2等分するのはむずかしい。からだは、必ずしも自分の思う通りに動かないからだ。明らかに一方の分量が多くなってしまっているとわかっていても、意思のほうとしては鋭意・一生懸命、完璧な2等分を目指しているというケースは少なくない。分割作業のすべてを見届けてから選ぶ側になったほうが、なんだかイージーに思えなくもない。


でもここでも、人間はかならずしも自分の意思通りの合理的な決定をできるとは限らないという論理がまかり通るように思う。選ぶ側も選ぶ側で、観察する目や、持ち上げた重さを感じる腕の感覚などを頼りに自分の獲得したい一片を選ぶのだけれど、その結果、かならずしも実際の目方が大きいほうを選べるとは限らない。意思としては、目方の大きいほうを志向していたとしてもだ。


ここまでさんざん説いておいてなんだが、これは2人で分けるときにしか使えない方法だ。ただ、ロジック的に巧いなとは思う。このような「巧いロジック」による、3人以上で半端な分量のものを分けられる方法ってないものだろうか。


すべての者が納得できる方法を提案したものが、その端数を受け取れるというのはどうだろう。これだと、誰かが方法を考えつかない限りは端数の貰い手は決まらないし、「ふざけんな!  おれは頭がわるいんだ。不利じゃないか」と言い出すものがいるかもしれない。それに、すべての者が納得できるやりかたの発案が叶ったなら、その方法で分ければ良いような気もする。


端数を誰も受け取らないことにする、というのはどうか。端数にあたる最後のひとつを、その場に置いていくのだ。これだと、その端数のものはただただ無駄になる。端数を含んだ全体の獲物自体を獲得する前に、獲得しないようにすることができるのならばいいかもしれない。たとえば、13個のみかんを親戚のおじさんがくれるという状況だったとしたら、「おじさん、おれたち喧嘩しちゃうから12個でいいよ」と断ればいいし、みんなでみかん狩りに来ていて、木になっているそれをみんなで収穫している状況だったとしたら、13個目には手をかけずに、木に残しておけばいい。だけれど、そんなもろもろの仮想設定はここでは論外である。もう、みかんは3人の目の前に13個あるのだから。


あれこれ喧嘩をせずに分ける方法を考えるほどに、くじ引きだとかじゃんけんだとかいった方法のすごさに思い当たる。同時に、なんて強引な方法だろうとも思う。運の強さで決めるなんて、結局、強い者が勝てる方法じゃないかと。運の強弱は、強い弱いという形容が当てはまらないというのが正しいのだろうか。1万通りの運命があったとして、1万回チャレンジして1度も成功しない者もあれば、1万回すべて成功する者も、確率によれば存在することになる。それをよしとするのかどうかを考えるのが、人間的な作業だと思う。


こうして冒頭の問いを発端に考え始めてみた結果、この小さな稿のなかでは答えが出なかった。あなたなら、どう分けるか?




……と、ここまで読んでいただきましたが、今回のこれには、ある答えがあるそうです。それは、「みかんをジュースにして分ける」というもの。なるほど、そりゃあいい感じに分けられるでしょうねぇ、分量の平等さ的にいえば……。発想転換の提言としてはたいへん刺激的なお話ですけれど、ジュースにするのにわざわざ固形(ホール)のものを用意するなんて、ちょっとへんだとも思います。子どもたちが喧嘩になったから、しかたなくジュースにしたというのならストーリーは成り立つかもしれません。ただ、僕がひとりでいろんな子どもを演じるとしたら、間違いなく「やめて!  ジュースにしないで!  ぼくはそのまま食べたいのに!」と泣きわめく子を含ませて演じるつもりです。


「すべてを平等に分けない限りは、誰かが絶対に文句を言う」という前提を、勝手に自分に課した時点で、すでに発想がこり固まっているのですね。3人で4個ずつもらって、残りの1個はおじさんの家の神棚に置き、この機会にみんなで一緒にご先祖のことを思い起こす……なんてのも、良くありませんか?  (ああ、お正月っぽい)



新年早々、おつきあいいただき、ありがとうございます。