僕とジンの恋愛話

かつて僕は、ジン(お酒)が嫌いでした。ジンの匂いを、「薬くさい」と思っていました。


今の僕は、ジンが好きです。ジンの匂いを、爽やかで、すっきりとしていて、豊かで、華やかで、キレがあって、ときにマイルドな香りだと思っています。


ジンの匂いは、商品によって違いますけれど、ジュニパーベリーを中心とした、いくつものハーブや果実の香りだそうです。そういったことを、昔の僕は知りませんでした。少なくともジュニパーベリーが使われているということを知ってから、ジンを好きになるまでにもかなり時間を経ています。


僕がジンに興味を持ったきっかけは、あるカフェで飲んだトニックウォーターがおいしかったという体験にあります。おいしかったので、どこのものか尋ねたら、特別なものではなく、市販されている商品でした。調べてみると、トニックウォーターとは、柑橘類を中心としたハーブやスパイスなどの香りと、糖類の甘みが加えられた飲み物とのことです。だいたい、炭酸が入っているみたいです。


ところでトニックウォーターといえば、ジントニックという名前のカクテルが思い浮かびます。そんな経緯で、僕は「薬くさい」と思って敬遠していたお酒、ジンにも興味を抱いたのです。


そこで、ジンというお酒はいったい何かと調べてみますと、先に述べたことがらと重なる部分を含みますが、ホワイトリカーに、ジュニパーベリーを中心としたいくつものハーブやスパイスによる香りを加えたものである……といったことがわかります。「いくつものハーブ」がどんなものかといいますと、ここが商品によって違うようでして、オレンジピールやコリアンダーの名前があがることもあるようですが、この香りの原料の構成・顔ぶれ、その配合比が、その商品の個性を大きく左右しているのでしょう。


カフェでトニックウォーターをおいしいと思った体験をしたあとに、スーパーでジンとトニックウォーターを買ってきて、家でジントニックをつくって飲んでみますと、これが、おいしい。かつて感じた「薬くささ」はどこへやら、その香りはここちよく、すーっとして、爽やかに感じられました。


原料についての正体をより深く知ったから、そう感じられたのでしょうか?  それもわずかにあるかもしれませんが、かつてジンを「薬くさい」と感じていた頃の僕より、今の僕のほうが、スパイスやハーブに関する経験値が上がっています。ひとつひとつのハーブやスパイスの香りを体験し、それらが用いられた料理やドリンクを楽しんで、「いい時間」を過ごした蓄積があります。そうした個別のハーブやスパイスに関わる体験が増えたことで、それらのハーブやスパイスが複合的に用いられた別のドリンクや料理を体験したときの感じ方までもが、変化したようなのです。



たとえば、「失恋の経験」は、その時はつらいですが、その体験を経て歩む人生において感じられることは、失恋の経験なしには決して得られなかったものでしょう。ひとたびの「別れ」なしには、「再会」はありえないのです。


そんな、「僕」と「ジン」にまつわる恋愛話。(だったの?!)読んでいただき、ありがとうございました。