トングの話

我が家で現在活躍中のトングは、モノをつかむ先端部分がやや小ぶりなものです。おそらくステンレス製で、シンプルなつくりになっています。文章での説明が難しいのですが、2体のこけし人形のシルエットを上下対称にならべて、真ん中で折り返したようなかたちになっています。折り返し部分にバネなど用いられておらず、対になった靴べらのようなデザインでもあり、かつ先端部は円状になっていてその部分でモノをつかむようになっているのです。まっすぐな薄いステンレス板を、ややふくらみを持たせてカーブさせた(この形状およびカーブが靴べらに似ています)ような感じで、どこにも水がたまって不衛生になったり、乾きにくくなったりするような部分がないのです。使ったらサっと洗って水切り棚に引っ掛けておけば、自然に水が切れて乾き上がりますし、靴べらのようなまっすぐかつなだらかなカーブを持った凹凸や隆起のないデザインになっているので、ふきんでサっとしごけばそれだけでも水気を拭い去ることができます。


こいつを使い始める前は、先端がギザギザした円板状といいますか、ギラギラ照りつける太陽を絵に描いたような形状といいますか、星状といいますか、ちょっと変わった先端部の形状を持ったトングを使っていました。こちらは、たしかに生肉をつかみ上げるときなどにそのギザギザなささくれた形状でしっかりと掴んではくれたのですが、使い終わって洗ったあとふきんで拭こうものなら、ふきんのほうにもそのギザギザが引っかかってくれるものでして、なんというかこう愛せないといいますか、さわるとこちらが痛い思いをするような、かわいくないやつなのでした。


いわゆるよくあるトングは、先端がムール貝のような形でかつそのエッジを波々させたような形状といいますか、MicrosoftOfficeWordに初期装備されている図形の雲形の吹き出しみたいな形状といいますか、そんなような形になっているものがありますね。あれはあれで非常に掴みやすいですし、つかむ部分の面積とややカーブしたたゆみによる容積で、つかむという機能をガッチリ保証してくれるてっぱんデザインだとは思いますが、金属を内側に折り返したような、グリップ部分の内側のあたりに水がたまりそうな感じがしますし、つかむ部分を束ねる折り返しの部分にばねが使われているものもあって、ややごてごてした印象を受けなくもなく、僕は購入したことがないし、我が家で見かけたこともないので、僕と結婚して同居している妻の持ち物の中にもなかったようです。


現在つかっている我が家のトングは、どこかから妻が買ってきたのか、妻と外出時にコレいいね!  とか感動し合って購入を決めたものだったか忘れてしまいました。あまりこのトングに感謝や愛情の念を持って扱ってきた自覚もなかったのですが、あらためてこのトングひとつに思いをめぐらせてみると、なかなか愛情を注ぐのにじゅうぶんなくらい、愛嬌があり、うやまい深く、尊い存在に思えてきます。