秘密の副業

オキナワだった。巨大なサメがジャンプして、絶壁で背洗いをしていた。生命力が満ち溢れて、爆発する。世界中のアクアリウムを寄せ集めて、すべてのガラス壁を取っ払ったみたいな、不自然なくらいに豊かな海だった。


僕は、山賊に連れられて船に乗っていた。開放的な空の下、逃げ場のない閉鎖空間。小型の船が、快調に海を疾走する。ここは海なのに、こいつらは山賊なのだ。おかしな連中だ。彼らが自分たちを山賊だと言ったわけではない。それなのに、僕には彼らが山賊だとわかったのだ。おかしな奴を捕らえてしまった連中だ。山賊たちは、今すぐここで僕のことを降ろしてやってもいい、などと言う。こんなにサメやらなんやらの巨大魚がひしめく海の真ん中で降ろされたら、たちまち命を落としてしまうだろう。僕はそんなことをされたら生きていけない、もう少し違うところまで送ってほしいと懇願した。



海の底で、妙な見世物をやっていた。だいぶ昔に見たことのあるような、スタジオで司会者二人がしゃべっているだけの質素なテレビ番組みたいなやつだ。コンピュータグラフィックで海の中の背景を合成したのが当の放送だったけれど、ここでは背景は合成ではない。本物の海なのだ。山賊たちは、これに出演しに来たらしい。なりゆき上、僕もそれに交じった。


海の底なのだが、光量や雰囲気が酒場のようだった。実際その通りで、スタッフの姿がちらちら見えた。その中の、一人のバーテンダー兼ウエイターの男には見覚えがあった。僕が普段働いている施設の利用者だ。こんなところでも働いていたのか。同じことを向こうも思ったかもしれない。こっちは、山賊と勘違いされるのはおもしろくない。あまり知られたくない副業といえる。


その男が、教えてくれる。

「君は行かなくていいのかい?」

時刻は2時過ぎだった。うっかりしていた。

「ええ、行きます」

普段働いている施設の恒例行事ともいえる、大仕事があった。今出れば、まだ間に合う。

山賊たちに潜水艇をつけてもらって、僕はナハの市街地に降り立った。同僚の女性二人と合流して、急いでエキへと向かう。途中の路上には、芸人の女性が一人いた。3つのボールを用いて壁当てキャッチボールをするという芸当を披露してくれた。だが、その芸は失敗した。足元にボールが転がってきたので、僕もボールを投げたくなった。久しぶりな気持ちで、なんだか僕は嬉しかった。



AVルームでは、飾り付けと展示の準備が進んでいた。役員のハバノ氏は、同じ役員で仲間のミスズ氏の扮装をしていた。内輪にしかわからない、際どい扮装だ。ミスズ氏の姿をしたババノ氏は、大量のネックレスを椅子に置いて展示するつもりだったらしいが、やはりぶら下げることにしたので手伝って欲しいと懇願してきた。やることが急に舞い込んできて、時間に追われる。僕らは高揚した。


展示ブースには、メッパシ君がいた。僕の同期の友人だ。今日も、母上が買ってきたユニクロのシャツを着ているのだろう。いつもの見慣れた姿だった。竹細工の展示商品と、非売品の施設備品が混ざらないように管理しているのだという。僕も注意深く見回ると、備品と展示品が混在してしまっている箇所がいくつか見つかった。自分で直そうと試みたけれど、うまくできなかった。近くにいる女性にお願いすることにした。


一時期よく耳にした、プロジェクションマッピングというやつだろうか。巨大な摩天楼に打ち上げ花火が映し出されていた。同時に本物の花火や打ち上げられていて、僕にはその区別がつかなかった。友人のメイ・リコが傍にいて、今日は数世紀に一度の天体ショーなのだと教えてくれた。見上げると、大きな連星が空にモヤリと浮かんでいた。名前は忘れてしまったけれど、僕の国の人たちにとって、親しみのある天体だ。普段は遠くにごく小さくしか見えない。こんなに大きく近くに見えるなんて、僕は感動していた。そもそもこの星が連星だったことを、多くの人が知らなかっただろう。


音と光。


日常と非日常。


近しいものと、遠いもの。


ざわめきと、おちつき。


幻みたいな現実と、


うろ覚えの、過去と今。


僕は恍惚として、空を見つめた。